抗ウイルス性フィルム「ロンエースLP」

ロンシール工業株式会社 研究・開発部
高橋 亜由美(たかはし あゆみ)
小野 智大(おの ともひろ)

1.はじめに

 生活環境には,数多くのウイルスが存在している。近年のウイルスに関する問題としては,インフルエンザウイルスの変異による集団感染や,強毒性鳥インフルエンザの突然変異による人への感染1),ノロウイルスなどによる食中毒の集団感染などがある。また,航空機等の輸送機関の発達により,世界各国で発生している強毒性ウイルスの存在が身近になっている。そのためウイルス対策への意識は近年高まりつつあり,様々な場面でウイルスを除去・不活化する性能が求められるようになっている。

2.ウイルスの概要

◦細菌とウイルスの違い
 細菌とウイルスは微生物の分類学的位置において異なった分類とされている。細菌は,大きさ1μm程度であり,基本的に単細胞生物である。適した環境であれば自己で分裂し増殖することができる。一方でウイルスは,大きさ50~100nm程度であり,生物を構成する基本単位である細胞はなく,遺伝子の入ったタンパク質の塊である。自己増殖する能力は無く,他の生物に入り込み宿主の細胞の中で自己を複製させ,細胞から放出するというサイクルを繰り返して増殖する。このように,細菌とウイルスは構造や増殖方法の違いから増殖を抑制する方法も異なる。よって,現在,広く普及している抗菌剤ではウイルスへの効果が得られない場合がある。

◦ウイルスの基本構造
 ウイルスは遺伝子(DNAまたはRNA)とカプシドと呼ばれるタンパク質の殻からなる。その外側のエンベロープと呼ばれる脂質の皮膜の有無により,2つのタイプに分類される(図1)。
 エンベロープを有する代表的なウイルスとしてインフルエンザウイルスがあり,エンベロープがない代表的なウイルスとしてノロウイルスがある。ノロウイルスはエンベロープがなく固いタンパク質に覆われているため,アルコール等に対する抵抗性が高く2),不活化されにくいウイルスである。

◦抗ウイルス性の試験方法
 ISO18184:2014およびJIS Z 2801を応用し試験を実施している。ウイルス液をフィルム製品上に滴下し,ポリエチレンフィルムで覆い,所定時間静置する。その後,ウイルス液を回収し,そのウイルス液のウイルス力価を測定する。
 ウイルス力価とは,ウイルスの感染力を示す指標であり,ウイルス力価が大きい程,感染力が高いことを表す。

図1 ウイルスの基本構造
図1 ウイルスの基本構造

3.「ロンエースLP」の特徴

 当社では抗ウイルス効果を発揮する『ロンプロテクト』技術の開発に成功し,この技術を駆使した抗ウイルス性フィルム「ロンエースLP」を開発した。
 『ロンプロテクト』技術とは,当社独自の分散技術によって抗ウイルス剤をPVC樹脂全体に微分散させ,成形したPVC製品に接触したウイルスに対して,抗ウイルス効果を発揮するものである。抗ウイルス剤がPVC製品全体に微分散しているため,効率よく抗ウイルス効果を発揮するとともに,表面が磨耗しても抗ウイルス効果を持続させることができる。PVC製品であるため,市場・顧客ニーズに合わせ可塑剤の添加によって硬さの調整が可能である。
 「ロンエースLP」と汎用のポリエチレンフィルムをウイルス液A(ウイルスA・エンベロープ有)に1時間接触させた。「ロンエースLP」は,ウイルス力価が初期値5.7から1.5まで減少した。他方,汎用ポリエチレン製フィルムのウイルス力価は5.7であり,汎用ポリエチレン製フィルムはウイルス液接触1時間でウイルス力価の減少は見られなかった。これより,汎用ポリエチレン製フィルムはウイルス力価の低減効果が見られないのに対し,「ロンエースLP」はウイルス液A(ウイルスA・エンベロープ有)との接触1時間でウイルス力価を99.99%低下させる抗ウイルス効果が確認された(図2)。
 次に,「ロンエースLP」と汎用のポリエチレンフィルムをウイルス液B(ウイルスB・エンベロープ無)に24時間接触させた。「ロンエースLP」は,ウイルス力価が初期値5.1から1.8まで減少した。他方,汎用ポリエチレン製フィルムのウイルス力価は5.4であり,汎用ポリエチレン製フィルムはウイルス液接触24時間でウイルス力価の減少は見られなかった。これより,汎用ポリエチレン製フィルムはウイルス力価の低減効果が見られないのに対し,「ロンエースLP」はウイルス液B(ウイルスB・エンベロープ無)との接触24時間でウイルス力価を99.9%低下させる抗ウイルス効果が確認された(図3)。

図2 ウイルスA液 接触1時間後のウイルス力価 図3 ウイルスB液 接触24時間後のウイルス力価

4.用途例

 空港,病院,学校,駅,大型ショッピングセンター等の大勢の人が集まる場所や,幼稚園,介護老人保健施設等のウイルス感染時に重症化の懸念がある乳幼児・老人が集まる場所では,より高いウイルス感染に対するリスク低減措置が望まれる。そこで現在は,これらの場所で用いられる手摺,テーブル,椅子,ソファー,ベッド,ドア,日用雑貨などへの応用展開を進めている。

5.終わりに

 ウイルス感染対策はマスクの着用,うがい,手洗い,手指の消毒といった基本的な予防措置が大切である。これらの基本的な予防措置に加えて,「ロンエースLP」がウイルス感染に対する更なるリスク低減に寄与することを期待する。

<参考文献>
1)日本経済新聞,http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0301I_T00C13A4CR0000/
2)「抗菌・防カビ・抗ウイルス」 東レリサーチセンター(2015) pp.1-36

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